[ 北陸大学の正常化を目指す教職員有志の会から学生・父兄・卒業生に送った挨拶文(同会の中山代表がしたためたものです.)]

 

 

北陸大学の学生ご父兄ならびに卒業生の皆様

 今年は夏に台風が本土に上陸するなど、社会のみならず自然にも異変が見られて不安が感じられますが、皆様方にはご健勝のことと存じます。

 まずは失礼を省みず、このようなお手紙を差し上げる無礼をお許し戴きたく存じます。

私は北陸大学の法学部教授、中山研一と申します。今年の六月、北陸大学を正常な大学にもどすことを目指し、約七割の教員と相当数の事務職員の参加を集めて「有志の会」が結成されましたが、過日、私がその代表に選ばれた次第でございます。

 さて、現在の北陸大学が置かれている状態につきましては、その一部がすでに新聞等でも報道されておりますので、ある程度ご承知の方もおられるかと存じます。ご心配を戴いたご父兄や卒業生の方々から多数のお問い合せやご意見が寄せられているところでございますが、本日は、最近の本学の状況をお知らせするとともに、大学の正常化に向けて私たち教職員が微力を尽くしております経緯につき、ご報告させて戴きたいと存じます。

 まず、私立大学には、学生に良質な教育を行うことに責任を持つ教員、そのための環境を整えることに貴任を持つ理事者、そして事務的な仕事を受け持つ事務職員がおります。私立大学においては、この三者がスクラムを組んで学生に良質な教育を提供することが期待されているのですが、本学は、特に最近の本学は理事者の独善的なふるまいが目にあまるようになり、その結果、スクラムに軋みが生じてしまっているのです。そうした理事者の独善的なふるまいを端的にあらわす二つの象徴的な出来事をお話しをさせて戴きます。

 一つは、理事者によるお手盛り感覚の金遣いです。まず、前の理事長は三億円という法外な退職金を受け取りました。三億円という額自体も非常識ですが、本来ならば九千万円「しか」受け取れないところ、わざわざ規程を変えてまで退職金を増やしたのです。また、本学の理事の給与は国が定めた基準を遙かに上回っておりまして、あまりにそれが高額であるため本学は国からの補助金をカットされております。さらに本学には、理事長が「功労あり」と認めた理事に対して、亡くなるまで毎年、退職時の年収と同額の年金を支払うという信じがたい制度がありました。もちろん、これら理事者に支払われる多額の給与や退職金、年金は皆様からお預りした学費から捻出されております。つまり、本学では「私物化」と批判されても仕方のない金遣いがまかり通っているわけです。

 もう一つは学生監禁事件です。ある学生が理事長の世襲を皮肉るビラを配付したところ、理事側職員に七時間にもわたって監禁され、詰問されたという事件です。これには理事長ご自身も関与していたことが明らかになっております。このような非常識に示されるように、理事者は自由闊達な意見を一切封じ込める、およそ学問の府にそぐわない殺伐としたものへと本学を変えてしまったのです。

 皆様方におかれては恐らく信じられないことかもしれませんが、残念ながらこれらはすべて事実です。こうした事態を招いた根本的な要因は、大学は社会の公器であることから目をそむけ、手前勝手な運営を行うことを当然の権利と誤解している理事者の体質そのものにあると思われます。こうした理事者の体質につきましては、私たちが再三にわたり指摘し、改善を求めてきたところでありますが、理事者はこれに耳を傾けるどころか、諌める者たちを敵視する態度に終始するばかりなのです。

 しかしこの三月、ついに監督官庁である文部省は、本学の理事者による大学運営に問題ありと判断し、行政指導を行うに至りました。そもそも文部省は、ことのはか私立大学の自主性や自由を重んじておりまして、よほどのことがない限り大学の運営に口出しなどいたしません。文部省から行政指導を受けるということは、本学の理事者が、国として放置しておけないほどに問題を抱えていることを意味しているのです。

 文部省は本学に対する調査を実施した結果、本学は理事者が特定グループで固められており、外部の意見や教員の意見が反映されないために、運営が理事者の独断に陥っているという趣旨の認識を示しました。つまり、私たちがこれまで指摘し続けてきた問題点が、文部省の調査によつて裏付けされた格好になったわけです。文部省はこうした認識のもとで、理事者に対して、理事会や評議員会の構成メンバーを見直し、理事会の運営に対するチェック機能を高め、教員との意思疎通を図るべきだ、などとする数項目にわたっての個別指導を行ったのです。

 監督官庁からこれほどまでに厳しい指導を受けたとあれば、さすがの理事者も体質を改めるかと期待されました。しかし、理事会は一部形式的な手直しは行ったようですが、体質そのものを改める気配はありません。たとえば、文部省の行政指導があったことやその内容についてさえ、学生・父兄や教職員に説明も釈明もせず、だんまりを決め込んでいます。父兄から学費を集め、国から補助金を受け取りながら、その使い道を父兄にすら全く公開しないという態度も変えていません。さらに、文部省の指導の中には、学長選出は教員と相談して行うべきという趣旨の項目があったのですが、理事長は教員の意見を無視して、独断で新しい学長と学部長を決めてしまいました。こうした理事者の態度に文部省も頭を抱えていると聞き及んでおります。

 そんな中で、私たち一般の教職員は、学生にしわよせがこないよう、教育に支障が生じないよう、何とか頑張って努力してるのですが、残念ながら、いくら正常化を要望しても誠意ある対応をしないばかりか、私たちを敵視する姿勢を続ける理事者の下では、沈滞と無気力が支配し始めています。何故、理事者は体質を改めることをこれほどまでに拒むのか、もはや私たちの理解の及ぶところではありません。

 北陸大学の恥ずかしい現状の一端をお知らせしましたが、このまま推移しますと、良心的な教員もやる気を失って、大学は取り返しのつかない事態に陥る恐れがあります。しかし、私たちは決してあきらめず、大学が清潔なイメージを回復し、正常化されるまで、辛抱強く努力を重ねていくつもりです。私たちはその一環として、七月二四日(木)に第一回の「北陸大学の正常化を考えるシンポジウム」を市の観光会館で開催し、学外の方も含め一五〇人もの方にお集まりいただきました。その際の記録を含めて、多くの資料がありますので、ご希望の向きは是非ご連絡下さい。

 ご父兄や卒業生の方々のご期待に沿うべく、今後も最大限の努力を続けたいと考えておりますので、よろしくご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

 

平成九年九月一日

                「北陸大学の正常化を目指す教職員有志の会」代表

                       法学部教授   中 山 研 一

  

                 連絡先   外国語学部教授 林  敬

                       薬学部数授   橋 本 忠