北陸大学の正常化を目指す教職員有志の会会報第7号(1997.9.2発行)

教職員の皆様へ

 

有志の会からご父兄、卒業生へ

中山代表の挨拶を送付する

 

 有志の会の主旨と活動に対し、大学教職員ばかりでなく、広く本学関係者にも理解と支援をいただくという本会発足時からの懸案事項でありましたご父兄、卒業生への手紙の送付を本日から開始いたしました。書簡は、本紙の裏面にコピーいたしましたので、読んでいたければ宜しいかと思いますが、中山代表が自らしたためた挨拶であります。

 手紙の文面をごらんになった有志の皆様から、“これでは真実が伝わらない。なまぬるい”のお叱りを受けるのではないか存じますが、ご父兄、卒業生へ最初から衝撃的な挨拶を差し上げることもできません。引き続き、本学で起こっている諸問題をお知らせしていく予定です。

 以前、衛藤瀋吉氏への本学理事者の不自然で、無礼な学長撤回騒動を、北陸朝日TVが報道し、解説者が衛藤氏と同じ主旨で論評していたように、常識的に考えれば、本学のどこに問題点があり、何を正常化しなければならないかは衆知のことであります。しかし、もはや自浄作用を失った理事者には、何を望んでも期待が薄いかもしれません。現に、本会の中山代表が会発足と同時に理事者への接触を図り、正常化の話し合いの場を作ることを提言してきましたが、未だに北元理事長は誠意ある前向きの姿勢を示そうとはいたしません。

 しかしながら、私たちはあきらめるわけにはゆきません。理事者との話し合いで、一つ一つ大学を良くしていくシステム・制度を作りあげるために、これまでよりもっと積極的に、かつ強力に本会の目的を進めて行くことが必要です。もとより大学は学生のためにあり、私たちはご父兄の負託を受けているわけですから、まず、本会の設立趣旨と今後の行動にご父兄や卒業生の理解と支持を得る必要があります。

 今後の有志の会の活動展開に皆様のご理解とご協力をお願いします。

 

「第1回 北陸大学の正常化を考えるシンポジウム」

鴨野幸雄先生 特別講演「大学の自治に基づく大学運営」要旨

 一、学問の自由保障の意義

 憲法23条「学問の自由はこれを保障する」の「学問」とは、現在の価値に対して一定の疑いを持って追求し、新たな価値を産み出していく精神的な営為の継続である。その保障のあり方として、「市民としての学問研究の自由」の保障と、「教育研究者の教育研究の自由」の保障とがある。後者をより具体化すると「大学の自治」という形となる。

ニ、大学教員の教育研究の自由 

 教育研究機関たる大学を設置する国、学校法人に対して、研究者は雇用関係にある。このような研究機関において、外在的権威に拘束されないという形を取らなければ、大学教員の教育研究の自由は図れない。具体的には、指揮監督権からの自由、懲戒権からの自由、そして身分保障が必要となる。こうした広範な保障は、大学教員が絶えず真理を探究し、厳しく自己を律していくという道徳的規律の存在が背景となる。

三、大学の自治 

 「大学の自治」とは、大学を外部勢力、公権力、あるいは私的な設置者の制約拘束から解放し、大学の本来的な機能である教育研究を自律的に遂行できるようにするということである。具体的な自治の内容として、第一に教員人事の自主決定権がある。教員人事には、教員の自主決定権が先行し、設置者の任命権を形式化していかなければならない。二つ目は、教育研究内容の自主決定権である。専門家集団の教師として、どういう学生を入学させ、どう教育していくかを、教師集団の中で自ら決定することが、大学に負託されている使命にかなう。三つ目は、財政自主権である。予算をどう使うかは、学問研究の側面から予算の必要性を決定し、その上で財政運用を進めることが求められる。最後に、大学の自治と学生の自治がある。学長選挙を例に取ると、大学は学問研究を行うところであるから、そこに参画するのは研究者に限られる。しかし学問研究を支える事務職員、あるいは研究者になりつつある学生も含めて、何等かの形で学長選に参加するよう考えることも、大学事務職員の自治、学生の自治に適うことである。

四、学問の自由の保障範囲 

 私立大学における学問の自由の保障という問題がある。教員は当該大学の設置者に対する関係において、研究教育の自由が保障されていなければならない。その意味で、学問の自由の保障範囲は、国公立、私立の別なく、自らの教育研究が自律的に行われるべきである。

五、学校教育法と私立学校法 

 教員人事は、学校教育法59条の重要事項審議権の柱である。教員の自己規律、誠実性に裏付けられた研究集団の相互批判と評価によって人事が決まる、その人事は学生に対して、教育研究に対応した相応の人事である。教員の評価は教員にのみ可能であるという信念が、大学の自治の核心である。

 逆に、私立学校法36条は、学校法人の業務は寄付行為に別段の定めがないときは、理事の過半数をもって決する、とするが、理事者が教員の人事に関与できるかが問題になるが、理論的にはできない。専門家的な知識、それなりの性質・制度を持たない一定の経営者主体が、専門家的判断、教育研究に責任をもつ集団の意見を聞かない形で、教育研究の最高責任者を選ぶことは、論理的な背理、すなわち大学の自治、学問の自由の憲法的な価値に反することになる。

 大学を形成する者として、教育研究に勤しみながら、なおかつそれを学生達に広めていこうという集団の人達が、最終的な責任の取り方として、学長、学部長の選出を自分たちの専門的な判断のもとで行う。そして自分達が学生に対して責任を負うという大きな意識をもって頂きたい。                    

   (7月24日(木):金沢市観光会館にて、金沢大学法学部長 鴨野幸雄教授の講演)