北陸大学教職員組合ニュース265(2008.1.17発行)



給与実態調査報告

給与比較 10年前と甚大な差


 教職員組合は、昨年1210日に給与と業績評価に関する実態・意識調査を実施した。調査に際して、 給与に関しては本学の約10年前との比較、業績評価に関しては3年前(平成16年)との比較を考慮した。10年前の給与データは理事会広報紙『With Plus』(平成8年及び平成10年)のデータを使用した。 教員各位の協力により、回収率は46.4%であった。

調査の結果、予想通り大きな落ち込みが明らかになった。年収は12年前との比較になるが、各年齢層平均で35歳から45歳の中間層は約200万円、 55歳から60歳までは約300万円、 60歳以上は400万円の減であった。 月額給与は、 10年前と比べて、 教授は約79千円、 准教授は45歳以上で約97千円、 講師は約25千円、 助手は1万円以下の減であった。(例外的に10年前の本学給与を上回る階層が若干あったが、 それは、この階層が当時全国水準と比べて極めて低い水準にあったせいで、全国水準と比べれば他の階層と同様に低かった。)

実態調査によって本学給与実態は全体的に以下のような特徴が明らかになった。

  1. 給与水準が10年前より相当低い水準になっている。

  2. 55歳で給与は頭打ちになる。

  3. 同じ階層でも、給与にばらつき・格差がある(但し、 最高額でも10年前の全国水準より低い)。

  4. 従って、給与表(職能給)の運用は極めて恣意的であり、信頼性に欠ける。

 

給与実態調査からは近隣地区大学(「組合ニュース248号」参照)との給与格差も明らかになった。 格差の原因は、 昇給が6年前からほとんどストップしたままで、その間人件費比率は下がり続け、全国平均を10%以上下回る水準になったことにも求められるだろう。 それと反比例して大学法人の基本金組み入れ額(財形)は増加し、人件費とほぼ同額の年度もあった。平成18年決算で総額は300億円を超えている。

しかし、 理事会当局は、財政的に極めて良好な状態にありながら、 1月を過ぎてなお教職員組合との今年度給与交渉のテーブルに着こうとしない。 明らかな団交拒否であり、上記落ち込みはこのような不当労働行為の累積の上にもたらされた。 今年度も残り2ヶ月を割ったが、教職員組合は上記結果を踏まえて、今年度昇給要求額(月額10%以上昇給、賞与6ヶ月)の実現を強く要求する。


業績評価は組織沈滞の大きな要因

給与実態調査と同時に行われた、 業績評価に関する意識調査では、 業績評価は、導入目的であった働く意欲増進や組織活性化には大きなマイナス要因である実態が改めて明らかになった。

調査結果によると、 業績評価を消極的に受け入れる「あきらめ」の傾向が見られるが、賞与への反映には、なお賛成を2倍以上上回る反対が見られ、給与への反映には70%を超える大きな抵抗が見られる。 導入の目的として主張された 「意欲の高まり」や 「組織の活性化」 に関しては、 前回調査(「組合ニュース」216号参照)よりもさらに否定的になった。業績評価の信頼性に対する疑念が大きな要因となっていると見られる。 このようなことから、現行業績評価(人事考課)は、 教職員組合が当初予想した通り、 「教育改革」、 「意識改革」、 「教育成果」等のプロパガンダの下で、 人件費抑制と不満表明の封殺に一定の役割を果たしているに過ぎないと考えられる。

現在、 理事会は3月期賞与に向け教員の業績申告を求めている。 しかし、理事会がこれらのプロパガンダを、 賃金抑制の隠れ蓑としてではなく、 教員から支持されるスローガンとしてその実現を真剣に考えるなら、現行のような業績評価は即時中止すべきである。


<データ解析>

以下に,今回の給与と業績評価に関する実態・意識調査の集計結果を掲載する。今回の調査は教育職員に関するものであった。

(1) 給与について

「表1 教育職員年収(単位千円)」と名付けた表の中央の列「@With提示本学平均」は上述の理事会広報紙『With Plus(平成81213日発行) 掲載の年収で、 「我々の現行レベル」と紹介された額である。 その右の列の 「Aアンケート平均」 は今回のアンケート回答の各年齢層についての平均値である(共に職階の枠を外した調査であった。年収が記載されていた回答のみを計算した)。 ただし、回答者名が特定されることがないように配慮し、本記事の数値は、上2桁をそのままにして、 下2桁を「*」に置き換えて表した。

グラフFig.1はこれらの@とA、すなわち、「本学の平成8年の現行レベル」の年収(マーカー付き破線)と平成19年の実態(太い実線)を比較したものである。上述のように、この11年間で、甚大な給与抑制が行われてきたことが如実に示されている。 この「実態」は職階の枠を外した平均値であるので、 個別には年齢、 および、 職階で年収が逆転しているケースがあることを忘れてはならない(このことは50歳超のプラトーを見れば明らかである)。

グラフに使用した数値は、以下のグラフも同様であるが、平均値そのままである(「*」で置換する前の数値)。ただし、滑らかな表示にする為に、常套的に使用される処理を施した。




「表2 教育職員月額給与(円.含諸手当)」の中央の列(BDFH)は、やはりWith Plus(平成10529日発行)に掲載された職階、 年齢層別の本学の給与である。 右の列(CEGI)は今回のアンケートの回答を平均した値である。 ただし、上2桁をそのままに、下4桁を「*」に置き換えて表した。

Fig.2は、紙面の関係で表とグラフの配置が分かりにくいが、教授についての月額BとCをグラフに表したものである。 10年を経て、50-54歳層は比較的抑制が小さいものの、46-49歳層と55歳超では格差が大きく広がっている。 60歳超では実に月額14万円を超える。同一職階においてもこの状況であるので、職階枠を外した場合は20万円を優に超える。

Fig.3は助教授に関する月額比較である(DとE)。35-39歳層では平成10年では窪みとなっていた月額(破線)にほぼ一致する水準であるほか、50-54歳層は平成10年レベルに比較的近い。 しかし、 他の層では格差が極めて大きく,45-49歳層と50-54歳層ではその差が10万円に迫るばかりか、55-59歳層では50-54歳層より大幅に低いという逆転が生じている(逆転はここだけではない)。極めて歪なカーブを描いており、個別の格差が大きいと指摘した所以である。

Fig.4は講師についての月額比較である(FとG)。ここでも平成10年では窪みとなっていた35-39歳層が若干額是正されているが、45-49歳層の格差は過大である。 ここでも極めて歪な給与曲線となっていて、個別の格差の大きさが見て取れる。

助教に関しては比較すべきWith Plusのデータはない。Fig.5は助手に関するものである(HとI)。50-54歳層については強烈な抑制が見られる。45-49歳層以下については概ね平成10年と同水準であるが、それは安堵すべきことではない。 10年前も前の水準でしかないのである。

いずれの職階においても、グラフの曲線の形は歪である。 これは給与が年齢と共に安定的な改善がなされないほか、 決定方法が恣意的で、 個別の差別が隠されている可能性を窺わせる。抑制と個別の格差は現行の給与表から自然に生じるものではあり得まい。意図を持った所業の結果ではなかろうか。抑制と個別の格差は人事考課によってさらに拡大するだろうし、サンプル数が増えればもっと大きくなると思われる。


通常の給与の実態調査は他校の実態と比較するであろう。 しかし、今回は自校の平成8年と同10年の水準と比較した。この比較自体、奇異と思われる作業である。 しかし、この作業を通じて、 既に皆が実感していた内容ではあるが、 本学の極めて冷酷な教職員軽視の実状が給与の面からも明らかになった。10年間で労働環境が極端に悪化したのである。他校との比較はこの実状をさらに際だたせることになるだろう。


(2) 意識調査について

次ページは業績評価に対する意識調査の集計結果である.回答の合計数が少ないが,該当箇所が未記入の回答が相当数あったことによる。「給与・人事考課についてのご意見」は全部を掲載した。


理事会には何ができるか?

それは教職員の待遇向上である!


 今回の実態・意識調査で明らかになったことは、 給与の大幅な落ち込みと、 業績評価に対する信頼性がまったく欠如していることである。 それは、常々誰もが実感していたことだ。そこから透けて見えることは現状へのあきらめと将来への不安・希望のなさであり、 そのことは、 外・法学部廃止、 未来創造学部開設前後からの教職員流失に端的に現れていたことである。 教員がこのような状態で、その先に何があるのだろうか?確かに教育・研究費は、人件費(役員報酬を含む)と肩を並べる額(平成19年予算)になったが、肝心の教員がこの状態でどれだけの成果が期待できるのだろうか?今回の調査は教職員組合が実施した調査だが、おそらくどの機関が実施しても同じ結果になるだろう。 大学理事会は、大学の将来を真剣に考えるならば、 事実を敵対的に無視するのではなく、現状を真剣に憂えるべきである。

 ここ数年、 理事会は大学証を始め、機会あるごとに教員に有無を言わさず 「意識改革」を求め、 「教育改革」 を求め、 「成果」 を求めた。 そのために、 教育観的にも、 時間的にも、 給与でも大きな犠牲を強いている。 しかし、 教員の意見を聴かず(教授会の形骸化)、教員に求めるだけで、理事会自らはそのために何をなすのか、明らかにされたことはない。「成果」を出すために自らは何をするのかの言明がない。したがって、理事会がどのような改善を行い、どのような犠牲を払っているかは誰にもわからない。それゆえ、 本当は進まなければならない方向があっても、 教職員の中に生じるのは、それを見いだす意欲ではなく、 脅迫されている意識と理事会に対する不信である。このような実態から教育成果の向上は期待できるだろうか?

 この現状を変えるために、理事会自らは何ができるのか?理事会に対する不信を払拭するために何ができるのか?理事会は先ず謙虚にそのことを考えるべきである。教職員側から見ると、 それは、ますます強権的に服従を強いることではないだろう。 理事会がなすべき重要なことの一つは、教職員を信頼し大学のすべてを明らかにすることだ。 それが、 公正な大学運営と、 教職員からの信頼回復の第一歩であり、 理事会の改革である。 例えば、 給与について言えば、給与水準の低い理由を正直に説明し、 給与水準を上げるためにどれだけの努力をしているか説明できれば、個人間の差がどれだけあり、 その理由を納得できるように説明できれば、 教職員は現状を理解するだろう。 そして、 教職員の待遇向上に努力する姿が見えれば、たとえどんなに苦しくても現状打開のために一致協力する道は拓けてくるだろう。 その時、 初めて教職員が運命をともにできる大学になるはずである。 理事会が望むような、そしてすべての教職員が望むような明るい大学になるはずである。

 確かに、私立大学は存在するために健全な財政を維持しなければならない。しかし、それ以上ではあり得ない。私立大学もあくまで社会の中に生きる教育・研究機関であり、営利企業ではない。 人を育て、 社会のための研究を推進する機関である限り、 教職員を使い捨ての消耗品のように扱うべきではない。 我々は、 理事会が 「建学の精神」を、 人を威嚇するが如く唱えるのではなく、 真に北陸大学創立の理想に立ち返ることを望む。そこにしか存在する意味はない。