北陸大学教職員組合ニュース244号(2007.3.27発行)
石川県労働委員会(石労委)審問報告−7
北陸大学事件(6年制薬学部担当排除問題)で明らかになった「担任外し」の不当性
北陸大学理事会の組合攻撃は、
@ターゲットとした組合員教員を教育現場から排除する。具体的には、a)教員の授業科目をなくし、講義の機会を奪う、b)担任外しにより、アドバイジー学生を持たせない、c)入試、父母会などの業務を外す、など。
A当該教員に「担当すべき科目がないので、雇用が終了する」と予告する。
B解雇を通告(整理解雇)する。
というプロセスで行われることを前号(組合ニュース243号)で述べた。薬学部キャンパスにおいても、太陽が丘キャンパスと2年のタイムラグをもって、上記の(解雇通告に至る)プロセス@が始動したと見られる。すなわち、平成18年度からの6年制薬学部への移行に乗じて、3組合員教員をターゲットとして、@の教育現場からの排除が行われた。この教員差別、不当労働行為・支配介入に対して、組合は昨年5月、石労委へ救済申立をした。その審理は平成19年2月16日に結審し、3月中に裁定、命令が出される。
この6年制薬学部担当外し、大学院担当外しの本質は、組合員差別であり、組合攻撃である。労働委員会に提出された理事会側の主張には、真実を隠蔽する不当な主張、虚偽が並びたてられた。そして、審問の中でその不当性、ウソが明らかにされた主張そのものによって、逆に、この事件の本質、真の狙いが鮮明になった。前々号(組合ニュース242号)でその一部を紹介したが、今号では、担任からの教員排除が不当な組合攻撃である事実が判明したことを報告する。
担任外しの経過と組合員差別
太陽が丘キャンパスでの担任外し 外国語学部と法学部廃止及び未来創造学部開設、そして薬学部入学生定員の大増員(460名定員)という理事会の大学運営方針は、平成15年に決定され、16年度から実施された。これが北陸大学の大きなターニングポイントとなったが、同時に、組合員教員の「授業担当外し」と「担任外し」をセットとして、組合に対する総攻撃の開始点となったのである。
太陽が丘キャンパスの外・法学部廃止と未来創造学部開設に乗じた組合員差別・排除は、新学部での組合員教員の授業科目の廃止と授業担当外しで開始された。理事会は、先ず、組合員の多数をセンター配属とし(組合員25名、組合員比率74%)、新学部から組合員を排除した(新学部の組合員教員は5名、組合員比率25%)。この時点で未来創造学部及び薬学部で授業担当予定のないセンター教員は15名で、将来の「整理解雇」対象予備軍であった。全員組合員でセンター所属組合員の60%に相当する。更に、理事会は担任外しによって組合員教員を教育現場から遠ざけた。即ち、太陽が丘キャンパスの担任となった教員28名のうち、組合員教員はわずか3名(11%)であった。25名の組合員教員のうち、22名(88%)が担任から外されたのである。一方で、非組合員教員は28名中25名(89%)が担任となった(その結果、非組合員の担任教員の中には、100名以上の学生を受け持った教員もいた)。この極端に偏った担任委嘱の人数と比率から、組合員教員の排除は明確であった。この担任外しの理由、担任教員となる基準について、組合は平成16年4月8日付で、文書説明を求める要求書を提出した(組合ニュース、211号)が、学長は回答せず要求書を無視した。
今回の石労委で、岡野教授は、平成16年4月1日の担任申し渡しの会議について、陳述と証言をした。岡野教授はその会議で、担任排除に納得できず、A講師が2クラス担当するので1クラスを担当させてほしい、と申し出たが、学長は「今年はこれで行くからだめだ」と取り合わず、不当な組合員差別をした、と陳述した。
これに対して、河島学長陳述書は、「各学部において学部の専門科目を担当する教員を中心にもってもらうことを原則とした」(河島学長陳述書44頁)と説明し、岡野教授が担任とならなかった理由について「学部において専門科目を担当する教員に受け持ってもらうとする基準を設けて、それに合致する教員に委嘱することを決定した以上、未来創造学部において専門科目をもたない教員に担任をゆだねるという例外を認めると、ようやくまとまりかけた新しい制度を根幹から揺るがすことになります」(河島学長陳述書45頁)と説明した。この説明は、今回の陳述書で初めて出てきた。石労委の裁定者に、組合員の差別でなく教育上の理由がある、と誤った理解を誘導するための主張である。だが、次に示すように多くの矛盾に満ちたものである。
1)「外・法学部の学生の担任であるためには「未来創造学部の専門科目をもっていること」を新たに担任要件として追加した。
2)A講師が、当時2クラス担任を申し渡されたが、同講師は未来創造学部の専門科目担当から外されていた、即ち、認められないとされた例外であった。
3)河島証人は、1月17日の反対尋問で、上記2)の矛盾を指摘されると、「A講師は不幸にして病気があって、少し緩和してあげた。その意味で今外した。だから(専門科目を)持っていない。」と証言した(河島審問調書119頁)。この証言の欺瞞性は、専門科目を持っていないことの理由に病人の負担軽減をあげたこと自体、2クラスの担任を委嘱していることと自己矛盾していることからも明らかである。しかし、それ以上に、河島証言は事実に反している。というのは、組合の調査では、A講師が病気を知ったのは平成16年12月であり、療養の休暇をとったのは平成17年1月であった。したがって、この担任外しの件から約9ヶ月後のことであるから、河島学長は、病気であることをもってA講師に未来創造学部の専門科目を持たせなかったことの理由とすることはできないのである。
このような河島証言の矛盾から、河島陳述の論理の信憑性にも、決定的な疑義が生じる。3)の証言が事実に反するだけではなく、河島陳述の論理を逆に辿っていくと、A講師は病気なので専門科目を持たせなかったが、事実上例外ではないから、基準に従って岡野教授には例外を認めなかった、という主張の理由が破綻し、そのことから、外・法学部学生の担任でも、未来創造学部の専門科目を担当していることが譲れない原則、と主張することもできなくなる。すなわち、平成16年4月に太陽が丘キャンパスの組合員の88%を外・法学部生の担任からも外した事実を弁明するために、河島学長が石労委で行った組合員排除を否定する主張の論理構成は、反対尋問によって、すべて根底から崩壊する。組合側は、最終準備書面でそのことを明示した。
薬学部での担任外しと北陸大学のターニングポイント 教育現場からの組合員排除は、外・法学部廃止と未来創造学部開設の頃から露骨になった。密室での新学部カリキュラム作成による授業担当外しが実行され、センター配属の辞令が出た平成16年4月1日には、上述の通り、太陽が丘キャンパスで大規模な組合員教員の担任外しが通達された。この組合員教員の差別と排除のハラスメントである「担任外し」が、4月後半以降には、薬学キャンパスにも持ち込まれた。担任教員を学長が決定し、学長命令によって組合員教員を差別して、理事会の意向を反映させたのである。即ち、田端、荒川両講師を含む4名の組合員教員に対して、先ず新入生の担当外しが平成16年4月15日に通知された。続いて、5月10日付けで、持ち上がりとなるべき2,3年生の担任からも外されることが薬学部全教員へメール配信、通知された。教授会の審議無しの通達であり、当該アドバイザーの学生は役職教授などに振り分けられた。これほど露骨な、教員無視、教育現場無視のトップダウンによる教学事項への介入と特定教員へのハラスメントは、薬学部の歴史ではなかった事件であった。
一方、この年度末には、理事会は、教員による学部長選挙制度を廃止して、学部長選任を学長推薦−理事長任命とする制度に改悪した。これによって、薬学部の教員の意思を反映する、制度上最後の砦が一方的に取り払われ、理事会の専断的大学運営に歯止めがなくなった。教授会の形骸化の観点からも、薬学部はこの年度で完全に変質した。また、平成16年度は大学総定員維持のため薬学部入学生定員を460名へと大増員し、新入生約530名を入学させ、その結果、学生数の量的拡大によって教育の質的な変貌が余儀なくされた。このように、平成16年度は、理事会の教学事項への介入、それを手段とした組合攻撃、民主的制度の廃棄、経営優先の教育環境悪化など大学の抱える矛盾が増大して、北陸大学が大きく変質したターニングポイントとなる年度であったと言える。
薬学部での担任外しの理由 以前、薬学部の担任外しの差別、ハラスメントについて、組合は、『組合ニュース』212号(平成16年5月28日)で経過を詳報したように、組合員外しが「全教職員一丸となって学生の教育と指導に当たる」とする“大学の方針”と矛盾するものであると批判し、5月26日付けで学長への抗議と文書説明を求める要求書を提出した。しかし、当時、学長からの回答はなく、これまで担当外しを正当化する理由は、一切明らかにされていなかった。しかし、前々号(組合ニュース242号)で報じたように、石労委において、大学側は労働委員会から釈明を求められ、初めて9項目の6年制薬学部担当教員の選任基準をあげ、そして当該3教員は研究業績が悪い、などとの主張を大々的に開始した。以下、その主張に関して、石労委で河島学長の証言により初めて公にされた事実を報告する。
学長は、主尋問において、担任外しの正当化理由としては、担任となるためには「教員の教育研究実績」が十分でなければならない、と述べ(河島証人審問調書36頁)、「理事長の意向であるとの理由は述べていない」と組合の主張を真正面から否定していた(答弁書17頁)。しかし、代理人が弾劾証拠を用意している旨断った上で行った反対尋問では、河島学長は自らの主張を通すことはできなかった。代理人が、田端、荒川両講師及びB講師(薬学部所属)の3名が担任を外れた理由について、「(あなたは)最終決裁者である理事長がひっかかるために担任から外れたと言っていますね。」と尋問したのに対し、河島証人は「“決裁者理事長が”と言ったかどうかわかかりません。」と答えをずらしたものの、代理人が「理事長が何でひっかかるかは自分にとってはわからないと。感性の問題だからと。こういうふうに言っていますね」と重ねて尋問すると、「そんなことを言ったでしょうか。はい。」と証言した(河島証人審問調書93頁)。これにより、担任決定の背後に理事長の意向があったことが明らかになったのである
また、荒川講師の6年制薬学部採用の面接は、平成17年1月27日に、河島学長、大屋敷副学長、中川理事、北野理事、事務職員1名(記録係)が臨席し、学長室で行われたが、この面接に関する反対尋問からも組合敵視の真相が窺われた。
代理人 :その日、あなたは荒川さんに対して、担任外しの件を組合が取り上げたのは、善処しようとした学長、つまりあなたを裏切るものであり、信頼を損ねたというふうに荒川さんを非難したんじゃないですか。
河島学長:言った覚えあります。
代理人 :あります?
河島学長:はい。
代理人 :この日の面談であなたは、荒川さんの研究業績に問題があるということは言ってませんね。
河島学長:その時点ではそこについては話をしていないかもしれません。
この尋問の問答(河島証人審問調書101頁)では、6年制薬学部担当となる要件も担任教員となる要件も教育・研究業績などに問題があるのではなく、荒川講師の組合との関わりが問題であり、担任外しと授業担当外しは、組合に対する攻撃、不当労働行為と支配介入が背後にあることを物語っている。
更に、6年制薬学部教員に登載しなかったことを通達したときの面談(平成17年6月24日)などに関して、河島証人の反対尋問における内容は以下のとおりである。(河島証人第3回審問調書102〜103頁)。
代理人 :その日に,あなたは荒川さんを呼んで,荒川さんが6年制の薬学部教員に不登載になったと。登載されなかったということを告げてますね。
河島学長:伝えました。
代理人 :その面談の際にあなたは理由として,理由について,担任外しのときと同様であり,理事長が違和感を持っているというふうに言ってますね。
河島学長:いや,覚えていません,それは。
代理人 :その面談の際にあなたは,事態を打開するためには理事長と面談することを勧めてますね。
河島学長:理事長と面談をすること勧めたというんですが,打開するためかどうかは別問題だと思います。
代理人 :理事長と面談することを勧めたことは事実だね。
河島学長:はい。
代理人 :それで,甲107号証(注:平成17年7月20日付けの荒川から学長宛のE-mail)を示します。
これはEメールの文章だけを抜き書きしたんで,Eメールの形式になっている発信者とか受取りが書いたやつは今日の書証に出しましたけど。こういうEメールを荒川さんからその後受け取ってるでしょう。
河島学長:こういうEメールがあったことは覚えていますね。この内容がそのものだったかどうかはちょっとわかりませんが,メールをもらったことは覚えてます。
代理人 :ここにも,「先日,河島先生とお会いしたとき,担任を外された場合と同様,理事長が私に不信感を持たれ,採用に難色を示していることが唯一の理由という旨を伺いました」と,こう書いてあるんですよね。 そういうことが事実じゃないですか。
河島学長:ここにはそう書いてありますけども,私そのように説明したかは。
代理人 :記憶ない?
河島学長:覚えてません。
代理人 :あなたがこのEメールに回答しなかったので,荒川さんはもう一回Eメールをあなたによこしましたね。
河島学長:ええ。これはメールで答えるべき内容でないので,そのようにしました。
この反対尋問では,河島学長は「覚えていない」を連発しているとはいえ,この日の面談で荒川講師を6年制担当教員から外すことは理事長の意向によることを示唆した事実を否定することはなかった。また、担任外しの件でもE-mailに記載されている、理事長の難色によるという理由を否定できなかった。少なくとも、荒川講師の研究業績不振などが理由とされたのではなかった(事実、平成17年6月の大学院委員会では、大学院博士課程後期担当教員と判定)ことを示す内容の証言であった。
尋問した組合側の代理人は、河島学長への反対尋問に先立ち、弾劾証拠を用意してあると注意を促したので、主尋問とはうってかわって、「覚えていません」を連発する結果となった模様である。今回の件は、双方の主張する事実関係が大きく異なっていたことに特徴があるが、結局、証人に対する反対尋問では、河島学長は、組合の主張する事実を否定することは出来なかっただけでなく、組合の主張を真っ向から否定していた本人の陳述書及び主尋問での主張に沿った証言さえも出来なかったのである。
第三者機関による釈明要求と審問の場では、学内で教員、組合の文書回答要求などを無視してきたような身勝手は許されない。法人理事会は、不当労働行為を糊塗し、自らの決定を正当化するためには、授業外しや担任外しは、団交でも主張したように、「教育の問題」であると主張するしかない立場にある。それ故、教学責任者として学長は真実を隠蔽し、「教育の問題」として何らかの後付理由、こじつけ理由を主張展開する以外にない。そこで、今回報告した担任外しに関しては、センター配属教員に対しては、「未来創造学部の専門科目をもっていないからだ」とか、薬学部では「教員の教育研究実績が十分でないから担任に適さない」などの理由付けをした。しかし、そこからは自己矛盾や論理展開の破綻が生じ、結果として、「教育の問題」の真の狙いが、組合差別と排除にあることが鮮明に浮かび上がったのである。
組合は事実をありのまま述べ、組合攻撃とその不当性を厳しく追及していきます。組合は、北陸大学における不当差別、不当労働行為、そして何よりも太陽が丘キャンパスにおける「不当解雇」と闘っていきます。組合は、これらの闘いを通じ、ことあるごとに服従を強要される大学ではなく、教育現場からの教育改革について、危機的な志願状況の打開について、生活者としての将来設計について、大学を構成するすべての人が正しい情報を共有し、本音で話し合い、知恵を出し合い、苦労を分かち合える大学を目指します。どうぞご支援をお願い致します。