北陸大学教職員組合ニュース192号(2003.6.11発行)
@新「規程」のネライ:労働条件の一方的改悪
1)5月27日、薬学部にて学長から2つの新「規程(制定案)」が提示されました。一つは「薬学部刷新準備委員会規程」であり、他は、法・外国語学部に関わる「新学部設置準備委員会規程」です。両規程には、共に条文が7つあり、それらは同様の内容をもっています。また、このうちの5つの条文には、すべて理事長が「決定する」「行う」という文言が含まれ、『規程集』同様に相も変わらぬ異様な規程になっています。
新「規定」によると、薬学部、新学部は共に「準備委員会」をつくり、その任務は6つあります。そのうちの一つの業務は以下のようになっています。(下線は、編集部で付加)
2)さらにこの条文は、第5条で「人事に関する特例」として、再度取りあげられています。
ここにこの規程の本音が垣間見えます。以下のように定められています。
A労働条件の決定:全学教授会でも、理事会でもなく、労使協議(団体交渉)である
団体交渉権
憲法第28条は、「勤労者の団結権と団体交渉権その他団体行動権」を保障しています。
このうちの団体交渉権には次のような大切な意味があります。例えば、ある職場に組合が結成されたとします。今まで経営者と労働者の一対一の個別交渉で決められていた労働条件は、以降、経営者と組合との団体交渉で決定するシステムができあがった、ということを意味します。経営者には、労働条件については団体交渉で決定するべきことが義務づけられたのです。他方、労働者には、団体交渉が人権の一つとして保障されたのです。したがって、経営者が、組合を無視して、直接、個別に労働者と交渉することは、人権の一つである団体交渉権の侵害になります。
団体交渉において初めて、労使双方による対等な決定が保障されるささやかな一歩が踏み出せます。経営者側が一対一で、事実上一方的に労働条件を決めてきた歴史への反省から、団体交渉権が生まれました。
北陸大学では
北陸大学では、1995年7月に教職員組合が結成されました。この時以来、「労働条件や労働者の経済的地位の向上に関連することがらは、すべて使用者と組合との協議で決定」(外尾健一『労働法入門』有斐閣双書)されるはずです。団体交渉権が人権の一つとして法的に認められているからです。したがって「およそ労働条件は団体交渉を通じてのみ決定すべきであり、使用者がこれを一方的に決定したり、変更したりしてはならないことを意味」します(同)。人権意識の低い経営者ほど、一対一で来い、などと威嚇します。
新「規程」では
今回の新「規程」を見ますと、「異動、身分の得喪」、曖昧模糊とした「人事の取り扱い」等、労働条件に関わる事項が「準備委員会」なるものの「業務」になり、「理事長がこれを決定する」ことになっています。とりわけ「身分の得喪」は労働条件の根幹です。これを決めるのは、すべて、団体交渉の場のみです。全学教授会、理事会でも、「○○委員会」でもありません。
B理事会:現状の変更時は、理事会が進んで教職組に団交を求めるべき
もう一つの問題点は、理事会の団交への姿勢です。この新「規程」は、「制定案」として薬学部に提示されましたが、実は既に理事会で決定済みでした。教員の「身分の得喪」に関わる事柄が「一対一」はおろか、一方的に「決定」されたわけです。組合の存在やその役割を無視しています。経営者は「(組合から)団交の申し入れがなくとも、現状を変更しようとする場合には自ら進んで団体交渉を求めなければならない」(同)のです。したがって、今回の新「規程」についても、前もって規程案を提示し、団交で協議するべきです。
C経理を公開せよ:父母、学生、教職員に
組合は95年の結成以来、団体交渉で、組合ニュースで繰り返し経理の公開を要求してきました。
文部省に2度も虚偽報告をした法人は、1997年に2度の行政指導を受けました。
「理事会に教員代表として学長しか含まれていない」(北國新聞97年9月27日)のは異常であり、「理事会、評議会の構成メンバーが、法人と関連企業関係者に偏っている」(読売同)「文部省、経理内容公開を求める」(北陸中日9月30日)と報道されました。法人は、文部省に公開の約束をせざるを得ませんでした。
こんなに世間を騒がせ、大学のイメージを下げた法人は、さらに恥の上塗りをしました。「行政指導に従わなくても、罰則はありません」( 『With』 1997年7月18日)
教職員の声により行政指導の内容を公表せざるを得なくなった法人は、97年10月、各学部にその説明に回りました。マスコミで報道されたとおり、驚くべき内容でした。「不動産、貸付、報酬等、諸規程を整備せよ」、「役員報酬の理事長一任」を改めよ、「功労年金は異例」、「内部監査機能を強化せよ」、「土地問題の不明朗性」・・・(すべて中川専務の報告)。「文部省は学校法人として公共性を自覚した運営を求めた」(読売97年4月3日)のです。
これは「私物化するな」と言われているに等しい指導です。にもかかわらず法人が「公開」したものは、大項目のみでした。他大学は指導されなくても、明細の公開をしています。
他大学の例(各項目の数字は編集部で削除しました。)
・ 父母、学生、卒業生、教職員に公開している。
・ 前年度と比較して公開している。
これにより、例えば、人件費の中で役員報酬がどの程度か、どのように経営陣が努力しているかが、それなりに分かる。
・ 各大学は、この様式で文部省に経理の報告をしている。
北陸大学の場合
・ 「公開」したのは、文部省の指導、マスコミの報道、95年結成の教職員組合の要求に抗しきれなくなった1999年である。
・ 平成10年度(1998年度)分のみで、前年度との比較がない。経営努力が一切不明である。
・ 文部省に提出するフォーマットには、<他大学の例>に示されているように、大項目の「人件費」には、5つの細目欄があり、大項目の「教育研究経費」と「管理経費」にはそれぞれ21、22の細目欄がある。
北陸大学もこれらの細目を記入して文部省に提出している。しかし『With』には、これらの細目を一切削り、大項目のみしか「公開」しない。公表できない理由があり、「知られてはこまることがある」(『組合ニュース』第86号)と判断せざるを得ない。
これでは公開が目的ではなく、逆に「隠す」ことがネライではないか、と思いたくなる。
私たちは、かつて『組合ニュース』で、この経理公開は「アリバイ作りである」と指摘した(第140号)。今日に至っても、細目は依然として公表されていない。
・ 例えば、人件費が、30億5600万円になっているが、役員報酬は幾らだったのか。かつて団交で法人は、「平成7年度の役員報酬では文部省のガイドラインを超えた理事が4人いた」ことを認めた。4千万円近くの理事が2人もいたことも判明した。国務大臣や県知事の年収をはるかに超えた額だ。そのため「文部省からの助成金を大きく削られ」た(『組合ニュース』同)。理事会が、真に「父母や学生のため」というならば、自らが率先して<細目・役員報酬>を明らかにし、前年度分をも掲載し、それと比較対照させることで、このように減額しました、と開示するのが当然だ。自らを省みないので、「異例の行政指導」(読売、97、4、3)を受けたまま、どのようにこれに従ったのかが社会にアピールできない。したがって、行政指導で示された「基本認識」の一つである「理事会が大学運営を独断的に処理している」(『同』第111号)という北陸大学のイメージも、改善されずに生きつづけることになる。受験生減は、教職員の責任ではない。
一切をひっくるめた「人件費」という表示、すなわち大項目のみの「公開」は、こうして「隠蔽」にこそ、その本質がある、と非難されても弁解の余地はない。
(他大学の例)
新聞記事の再掲
読売新聞 1997.4.3
国に虚偽報告2度
北陸大 体育館建設の資金負担など
文部省、異例の行政指導
学長選任問題を巡って混乱の続いている北陸大学(金沢市・北元喜朗理事長)が建設した体育館の資金負担の問題などで文部省に二回にわたり虚偽の報告を行い、異例の行政指導を受けていたことが二日までに分かった。
同省によると、同大学は当初同省に報告した計画とは異なり、体育館の一階部分を拡張し二階部分を増設したにもかかわらず、二階部分の増設を同省に報告しなかったことが昨年五月発覚、注意を受け、計画変更届を提出した。しかしその際、体育館の財源は体育館を管理する別会社を作り、その会社が負担したにもかかわらず,学校法人が負担したと同省に対し、再度虚偽の報告をしていた。
行政指導は先月十八日,北元理事長と久野栄進・前学長を同省に呼び、口頭で行われた。同省は、同大学の理事会、評議会の構成メンバーが学校法人関係者と関連企業関係者に偏っている点などを指摘した上、@理事会などの運営体制の見直しと法人の管理、運営の適正化 A理事会と教授側の協力関係の確立 B内部監査の強化 C諸規程の整備 D事務処理体制の改善と充実、強化−−の五項目を挙げ、学校法人として公共性を自覚した運営を求めた。
同大学の教職員有志は昨年十一月、同省に対し、同大学の業務状況や会計状況などについて私立学校振興助成法に基づいて調査することを要求する上申書を提出。同省は昨年十二月に同大学に自主的な調査を求め、三月までの間、理事会の会議録などの提出を受けた。同省では今後、同大学がどのように改善していくかについて報告を求めることにしている。
北陸中日 1997.9.30
北陸大に再行政指導
文部省 経理内容公開求める
学長選出などをめぐり理事会と教授らが対立している北陸大(金沢市)に対して、文部省が今月初め、今年三月に続き再度の行政指導を行っていたことが、ニ十九日までにわかった。
理事会などの構成・運営体制の見直しや、理事会と教授らの共同関係確立など、三月の指導後も後に改善進まない点について引き続き指導したほか、経理内容を教職員や父母らの関係者に公開することも新たに求めた。
経理内容の公開は、全国の多くの私立大学で、教職員ら関係者に対して行われている。北陸大では教職員組合が団体交渉の際に公開を求めてきたほか,今年八月には北元喜朗・同大埋事長あてに公開要求諸を提出している。
再指導について中川幸一・同大専理事は「指導内容の詳細は申し上げられない。改善の努力をしてきたが、結果としてそういうこと(再指導)になった」としている。