北陸大学教職員組合ニュース第165号(2001.1.22発行)

 

理事会並びに法学部教授会に対し冷静な対応を望む

 

1 金沢地裁の決定について

 平成13年1月16日、初谷法学部教授の申立てに対し金沢地裁の決定が出た。この決定に対し、大学理事会は1月17日付けの教職員に宛てた文書(中川幸一専務理事名)において「授業担当、教授会への出席、研究室の使用など、教授として取り扱うことについては、その必要性を認めず、これを却下しています」と説明している。これは初谷教授の申立ての第3項「法学部教授として取り扱わなければならない」ということに対する却下を根拠としていると思われる。この部分は地裁の決定では「法学部教授たる地位にあることを仮に定めることを超えて、法学部教授として取り扱うべきことを仮に命ずる仮処分を発令する必要性があるとは認められない」となっている。理事会はこの文言から上記のように「授業担当」云々以下、教授として取り扱うことを地裁の決定は認めていないと結論したのだろう。一方、初谷教授は1月17日付けの関係各位に宛てた文書で、「『法学部教授として取り扱う』ことは、『法学部教授たる地位』を認めれば必然的に決まってしまうことであるからあえて裁判所が主文で判断するまでもないという趣旨の決定を受けています」としている。主張の別れは地裁決定の上記引用部分をどう読むかによっている。この文言はこれだけを取り上げれば確かに解釈の余地を残す表現になっている。特に「教授たる地位にあることを仮に定めることを超えて」という表現や「仮に命ずる仮処分を発令する必要性があるとは認められない」という表現からは「定める」ことの内容や「認められない」ことの具体的内容が何であるかはにわかに判じがたい。しかし、少なくとも「授業担当、教授会への出席、研究室の使用」云々というような具体的文言はない。それよりも地裁の決定において明らかなことは、「退職の時期について」のところで「大学教授という職務の特性に照らすと、元来、年度の途中で退職、転職するというのは、教授自身の研究条件等にとっても、教育を受ける学生にとっても、不利益が大きく・・・」と一般論の形で示し、「保全の必要性について」でこの事件について「大学教授という職務の特性、研究条件の継続性等を合わせて考えると・・・」という表現で認めている教授職務の「特性」および授業の「継続性」に関する地裁の判断である。問題の文言は法律的にいろいろに読めるであろうが、331日までについてはこの判断と矛盾するものを地裁が決定しているとは思えない。文面上明らかなように地裁は特に学生の立場を考慮してこの判断をしたと考えられる。

2 法学部教授会の「決議」について

 上記の中川幸一専務理事名の文書では「授業担当をはじめとする教学に関する事項については、新しい体制での授業計画を継続する趣旨の決議に既に明らかなとおりです」と初谷教授に授業をもたせない方針が説明されている。この「決議」は法学部教授会の12月24日付「書面決議」を指していると思われる。しかし、この「書面決議」は「『退職日決定の通知』にもとづき」とあるように、初谷教授の12月22日付け退職を前提としたものである。従って、「書面決議」時と違って現在の時点では前提に根本的な変更があったことは否定できないのであるから、法学部教授会は新たな条件の下に慎重に審議し直さなければならないだろう。

 この審議がどのように行われるかについて、当組合は重大な関心を持っている。雇用の条件に関わることだからである。初谷教授が研究室を使用できず授業をもてない理由はペナルティーなのか、それとも他の何かなのか。法学部教授会はいかなる理由付けでその判断を下すのか。ペナルティーであれば、当然大学で一般に行われているような教授会による必要な審査手続きを経なければならない。金沢地裁の決定が「教授として取り扱うべきこと」を命ずる必要性を認めていないとしても、それは初谷教授が授業を持つことを妨げる決定ではない。従って、理事会及び法学部教授会が引き続き授業を持たせないならば、前提条件変更を受けた新たな手続きと理由が必要であろう。

 当組合が入手した河島学長の今年1月15日付け金沢地裁提出の陳述書に添付された文書によれば、1月12日付書面による法学部教授の意見表明で認められる、初谷教授の授業担当を拒否することの主な理由は、授業の欠陥の指摘と、1度決定したことの変更によって惹起される混乱回避である。しかし、前者に関してはことの重大さに鑑み、他大学でも行われているような慎重な審査手続きを経なければならないし、後者に関しては初谷教授の責任ではない。

 また、授業担当に加えて単位認定の問題がある。これに関してはまだ確定的な方針が明らかにされていないが、多くを語るまでもなく、初谷教授に代わって2〜3回の授業を、それも現実に混乱した状態で担当した非専門を含む教員が認定するということはとうていオープンな議論に耐えられるものではない。そのようなことを強行すれば、理論的な可否とは別に北陸大学の評価に致命的なダメージをもたらすおそれが濃厚である。この意味では、法学部教授会が単位認定に関して選べる選択肢はきわめて限られていると言わざるを得ない。

 最後に、新聞報道によると約1600名の学生が初谷教授の授業の継続を望んで署名し、それを持って学生有志が文部科学省に上申したということであるが、一部で言われているように「扇動された結果」であるにしても、現実に署名したこれらの学生に対して納得を得られるような説明のできる理由がなければならないだろう。

 これまでのところ、初谷教授の退職問題を巡って大学理事会及び法学部教授会によって理性的な対応がなされたようには見えない。本来教授会はこのようなときにこそ冷静に対応しなければならないところである。初谷教授に対する個人的感情が先行すれば情勢はますます混乱し、学生も巻き込んだ形でそれがもろに世間を騒がす結果となるだろう。このことの最大の被害者は学生、卒業生である。彼らは元来北陸大学の大切な財産であり誇りである。彼らが深く傷つき母校に愛想をつかすようなことがあってはならない。当組合はこの意味でも紛争当事者及び法学部教授会に理性的な問題解決を望むものである。名分の保てない無理押しは、亀裂を深めるばかりで何の解決ももたらさないことは明らかである。